関係者からさまざまな要望を集めても、それらをどう要件としてまとめればよいのか分からず、あいまいなまま進めてしまう、という経験はないでしょうか。要望と要件を区別しないまま進めてしまうと、実現できない内容や矛盾した条件が混ざったまま合意してしまう恐れがあります。
この記事では、要件整理を始める前に確認しておきたい目的と対象範囲から、ChatGPTでの関係者の要望の整理、要望を具体的な要件へ変える方法、制約条件と前提条件の整理、要件の優先順位の決め方、受入条件の明確化、要件間の矛盾と抜け漏れの確認、そして要件を関係者と合意できる形へまとめる方法までを順番に解説します。読み終える頃には、合意すべき要件と未確認事項を明確にできる状態になります。
要望と要件の違いは、受入条件が書けるかどうかで分かれます。
| 要望の書き方 | 要件に直した形 | 受入条件 |
|---|---|---|
| 入力を使いやすくしたい | 1件の入力を5項目以内で完了できる | 入力画面の必須項目が5つ以下 |
| 進捗がすぐ分かるようにしたい | 担当者が自分の担当案件の状態を一覧で見られる | 一覧画面に状態の列がある |
| ミスを減らしたい | 必須項目が空のまま登録できない | 空欄で登録を試すとエラーになる |
要件整理を始める前に目的と対象範囲を確認する
ChatGPTに依頼する前に、この要件整理が何のために行われるのかを確認します。
何を実現するための要件か明確にする
この要件整理によって、最終的に何を実現しようとしているのかを明確にします。目的があいまいなまま進めると、個々の優先順位や整合性を判断する基準が定まりません。
目的は1つに絞ります。2つ置くと、優先順位の判断で必ず衝突します。「入力の手間を減らす」と「記録の精度を上げる」は、どちらを上に置くかで結論が変わります。
対象となる業務・システム範囲を決める
要件の対象となる業務やシステムの範囲を決めます。範囲を決めずに進めると、関係のない要望まで含まれてしまい、整理の焦点がぼやけてしまいます。
要件を決める関係者を整理する
最終的に要件を決定する関係者を整理します。誰が決定権を持つのかが明確でないと、要件が確定しないまま議論だけが続いてしまう恐れがあります。
要望を出す人と、決める人を分けて書きます。4部署から要望が出る場合でも、決めるのは1人か1つの会議体にします。
ChatGPTで関係者の要望を整理する方法
目的と対象範囲が決まったら、ChatGPTを使って関係者の要望を整理します。
要望を渡すと、重複と対立が見えてきます。以下はAIに送るプロンプトです。コピペして使ってください。
あなたは要件整理の経験がある担当者です。次の関係者の要望を整理してください。
・関係者ごとの要望:4部署から出た12件の要望を、部署名を付けて記載
・プロジェクトの目的:1件あたりの入力の手間を減らす
・出力:「要望/誰の要望か/他の要望と重なるもの/他の要望と両立しないもの」を1行ずつ書く
・条件:両立しない要望は必ず指摘してください。渡していない要望を追加しないでください。
要望を整理する前の聞き取りでは、ChatGPTで業務ヒアリング項目を作る方法|現状・課題・例外を漏れなく確認を使うと確認漏れを防ぎやすくなります。
関係者ごとの要望をそのまま集める
まずは関係者ごとの要望を、加工せずそのまま集めます。早い段階で要約や取捨選択をしてしまうと、本来伝えたかった意図が失われてしまう恐れがあります。
誰の要望かを必ず残します。後で両立しない要望が出てきたとき、調整相手が分からなくなります。
同じ目的の要望をグループ化する
集めた要望のうち、同じ目的を持つものをグループ化します。表現は違っても意図が同じ要望をまとめておくことで、後の整理がしやすくなります。
12件の要望が、グループ化すると5つか6つに収まります。同じことを別の言葉で言っている要望が、部署をまたいで重なります。
要望同士の違いや対立を見つける
要望同士に違いや対立がないかを確認します。矛盾する要望をそのままにしておくと、後の要件定義の段階で行き詰まってしまう可能性があります。要望の対立を会議の場で整理する場合は、ChatGPTで会議の論点整理をする方法で争点と未決事項の分け方を解説しています。
典型的な対立は、入力項目を減らしたい現場と、記録を増やしたい管理部門です。この対立は要件の段階では解けないので、目的に照らしてどちらを取るかを決めます。
要望を具体的な要件へ変える方法
要望が整理できたら、それらを具体的な要件へ変えます。
曖昧な要望を渡すと、確認すべき点が明確になります。以下はAIに送るプロンプトです。コピペして使ってください。
あなたは要件整理の経験がある担当者です。次の要望を、実現できる形の要件へ変えてください。
・要望:入力を使いやすくしたい、進捗がすぐ分かるようにしたい、ミスを減らしたい
・その要望が出た背景:1件の入力に12項目あり、担当者が月120件を入力している
・現在の業務の進め方:入力後に別の担当者が内容を目視で確認している
・出力:要望ごとに「要件の記述/そのままでは決められない点/誰に確認するか」を書く
・条件:「使いやすくする」のような判断が分かれる表現は残さないでください。
曖昧な要望を具体的な動作や状態へ変える
抽象的な表現で書かれた要望を、具体的な動作や状態として表現し直します。曖昧なままでは、実現できたかどうかを後から判断できません。
ここが最も間違いの起きる場所です。「使いやすくする」を要件に残すと、完成の判定で意見が割れます。作った側は項目を12から8に減らしたことを根拠に完了と言い、現場は操作の手数が変わっていないことを根拠に未完了と言います。どちらも「使いやすい」の解釈として成り立つため、判定できません。要件は「1件の入力を5項目以内で完了できる」のように、数えられる形にします。
誰が何をできる必要があるか明確にする
その要件によって、誰が何をできるようになる必要があるのかを明確にします。主語と行動が明確な要件であるほど、実装や運用の場面で解釈のずれが起きにくくなります。
解決手段を先に固定しすぎない
要件を書く段階で、実現手段を先に固定しすぎないようにします。手段を先に決めてしまうと、より適切な方法があった場合に見直しにくくなってしまいます。
「一覧画面を作る」は手段で、要件は「担当者が自分の担当案件の状態を見られる」です。既存の検索機能で足りる可能性が残ります。
制約条件と前提条件を整理する方法
要件が具体化できたら、制約条件と前提条件を整理します。
予算・期限・技術など動かせない条件を整理する
予算、期限、使用できる技術など、動かすことのできない条件を整理します。制約を把握しないまま要件を検討すると、後で実現不可能なことが判明してしまう恐れがあります。
要件成立の前提となる条件を整理する
その要件が成立するために必要な前提条件を整理します。前提が崩れた場合にどう変わるのかを、あらかじめ関係者と共有しておくことが大切です。
制約と単なる希望を区別する
本当に動かせない制約と、単なる希望を区別します。両者を混同すると、調整の余地がある部分まで固定的に扱ってしまう恐れがあります。
見分け方は、動かせない理由を1行で書けるかどうかです。「決算期に間に合わせる必要がある」は制約で、「できれば今期中」は希望です。
要件の優先順位を決める方法
制約条件が整理できたら、要件の優先順位を決めます。
判断軸を渡すと、順位の根拠が説明できます。以下はAIに送るプロンプトです。コピペして使ってください。
あなたは要件整理の経験がある担当者です。次の要件に優先順位を付けてください。
・要件の一覧:グループ化して整理した6件の要件
・プロジェクトの目的:1件あたりの入力の手間を減らす
・使える期間と人員:3か月、担当者2名
・出力:「必須/あると良い/今回は対象外」の3つに分け、それぞれ理由を添える
・条件:必須に入れる要件は、ないと目的が達成できないものに限ってください。渡していない要件を追加しないでください。
必須要件と任意要件を分ける
必ず満たすべき必須要件と、余裕があれば対応する任意要件を分けます。すべてを同列に扱ってしまうと、限られたリソースの中で判断がつかなくなってしまいます。
必須が半分を超えたら、絞り込みができていません。6件のうち必須が2件か3件に収まる形が目安です。
価値・緊急度・実現難易度を比較する
各要件について、もたらす価値、対応の緊急度、実現の難易度を比較します。複数の観点から比較することで、優先順位の判断に納得感を持たせやすくなります。
優先順位の判断理由を記録する
決めた優先順位について、その判断理由を記録しておきます。理由が残っていれば、後から優先順位を見直す際の参考にできます。
とくに「今回は対象外」にした要件は、理由を残します。要望を出した部署から後で聞かれるのは、この区分です。
受入条件を明確にする方法
優先順位が決まったら、それぞれの受入条件を明確にします。
要件を満たしたと判断できる状態を具体化する
その要件が満たされたと判断できる、具体的な状態を明らかにします。判断基準があいまいなままでは、完成したかどうかで意見が割れてしまう恐れがあります。
数値や操作結果など確認可能な条件にする
受入条件を、数値や実際の操作結果など、客観的に確認できる形にします。感覚的な表現のままでは、人によって判断が変わってしまいます。
書き方は操作の手順にします。「空欄で登録を試すとエラーになる」なら、誰が確認しても同じ結果になります。
誰が受入判断を行うか決める
その要件について、最終的に誰が受入の判断を行うのかを決めます。判断者が明確であれば、確認作業が滞ることなく進みます。
要件間の矛盾と抜け漏れを確認する方法
受入条件が決まったら、要件全体を通して矛盾や抜け漏れを確認します。
同時に成立しない要件がないか確認する
複数の要件の中に、同時には成立しない組み合わせがないかを確認します。気づかずに矛盾した要件を残してしまうと、実装段階で対応に行き詰まってしまいます。
受入条件を並べると見つかります。「必須項目が5つ以下」と「登録時に記録する項目を増やす」は、同時には満たせません。
業務の開始から終了まで要件が揃うか確認する
対象となる業務の開始から終了まで、必要な要件が一通り揃っているかを確認します。部分的にしか要件が整理されていないと、実際の運用で対応できない場面が出てきてしまいます。
抜けやすいのは、修正と取り消しです。登録の要件は集まりますが、間違えたときの要件は誰も要望として出しません。
ChatGPTが補完した未確認事項を見つける
ChatGPTが整理の過程で補完した内容の中に、まだ確認が取れていない事項がないかを見つけます。もっともらしく書かれていても、事実確認が済んでいない内容をそのまま採用しないことが大切です。
要件を関係者と合意できる形へまとめる
矛盾と抜け漏れが確認できたら、最後に関係者と合意できる形へまとめます。
要件・優先度・受入条件を対応させる
各要件と、その優先度、受入条件を対応づけてまとめます。バラバラに管理するのではなく、一目で対応関係が分かる形にしておくことが大切です。
ここまでで整理した内容を渡して、合意用の一覧にまとめさせます。以下はAIに送るプロンプトです。コピペして使ってください。
あなたは要件整理の経験がある担当者です。次の内容を、関係者と合意するための要件一覧にまとめてください。
・要件とその区分:必須3件、あると良い2件、今回は対象外1件
・各要件の受入条件:操作して確認できる形で記載
・要望の出どころ:4部署のうちどこから出た要望か
・制約:3か月、担当者2名、追加予算なし
・出力:「要件/区分/受入条件/要望の出どころ/受入判断を行う人」の列で1行ずつ並べる。そのあとに未確認事項を別枠で書く
・条件:列は5つに収めてください。渡していない要件を追加しないでください。受入条件が決まっていない行は「受入条件未定」と書いてください。確認が取れていない内容は未確認事項へ回してください。
関係者レビューで認識差を解消する
まとめた要件を関係者にレビューしてもらい、認識のずれを解消します。作成者だけで完結させず、実際に確認してもらう工程を必ず設けることが欠かせません。
レビューで見てもらうのは受入条件の列です。要件の文言には同意しても、受入条件を読むと解釈の違いが出てきます。
合意後の変更を履歴として管理する
合意した後に要件を変更する場合は、履歴として管理します。変更の経緯が分かるようにしておくことで、後から振り返る際の混乱を防げます。
まとめ
ChatGPTで要件を整理する際は、目的と対象範囲を確認したうえで、関係者の要望を整理し具体的な要件へ変えることが大切です。制約条件や優先順位、受入条件を整理し、矛盾や抜け漏れを確認したうえで関係者と合意することで、実現すべき要件と未確認事項を明確にできます。
とくに気をつけたいのは2点です。ひとつは、判断の分かれる表現を要件に残さないこと。「使いやすくする」は、作った側と現場の双方が自分の解釈で完了・未完了を主張できてしまいます。もうひとつは、制約と希望を分けること。動かせない理由を1行で書けないものは希望で、調整の余地が残ります。
まずはこの要件整理によって何を実現しようとしているのかを明確にするところから始めてみてください。プロジェクト管理全体でのAI活用は、AIでプロジェクト管理を効率化する方法で解説しています。