生成AIに業務の相談をしたいと思っても、社内の情報をどこまで入力してよいのか分からず、結局相談を諦めてしまう、という経験はないでしょうか。何をどこまで置き換えればよいのかを整理しないまま入力してしまうと、意図せず機密情報や個人情報を漏らしてしまう恐れがあります。
この記事では、守るべき情報の特定から、機密情報と個人情報の匿名化、固有名詞や識別子の置き換え、数値や業務条件の加工、それでも入力を避けるべき情報の判断、相談手順、入力前の最終確認までを順に解説します。意味を保ちながら漏えいリスクを下げた入力文を作れる状態になります。
匿名化の考え方は、伏せる情報の種類ごとに決まっています。先に全体像を示します。
| 伏せる情報 | 置き換え方 | 残しておく情報 |
|---|---|---|
| 会社名・取引先名 | 「A社」「B社」と連番にする | 業種と規模(従業員80名の製造業など) |
| 氏名 | 役割に置き換える(購買担当者、上司) | 立場と人数 |
| 金額 | 桁数を保った概数(1,240万円→1,000万円台) | 桁と、他の金額との大小関係 |
| 日付 | 幅で書く(10月14日→10月中旬) | 前後関係と、期限までの残り日数 |
| 社内独自の呼称 | 一般名称(「新星プロジェクト」→「基幹システムの更新」) | 何をするプロジェクトか |
| 管理番号・社員番号 | 仮の連番 | 件数と、同一案件かどうかの区別 |
生成AIへ入力する前に守る情報を特定する
生成AIに相談する前に、何を守るべき情報として扱うかを特定しておきます。
社内規定で扱いが決まっている情報を確認する
社内規定で取り扱いが定められている情報がないかを確認します。確認しないまま入力すると、意図せず規定違反にあたります。
規定に書かれていない情報が出てきた場合は、判断を自分で決めずに残します。「規定にない」は「入力してよい」ではありません。
相手や取引先に関する情報を洗い出す
相談内容に含まれる、相手や取引先に関する情報を洗い出します。自社の情報だけでなく、相手先の情報も確認します。
見落としやすいのは、相手先から受け取った資料に入っている情報です。自社で作った文章は意識して伏せられますが、引用した部分はそのまま残ります。
誰が見ても困る情報かどうかを判断する
その情報が、誰が目にしても問題になる内容かを判断します。先に判断しておけば、匿名化作業の優先順位がつきます。
機密情報を匿名化する方法
守るべき情報が特定できたら、機密情報を匿名化します。
伏せたい情報と相談したい内容を渡すと、置き換え方を提案してもらえます。以下はAIに送るプロンプトです。コピペして使ってください。
あなたは情報管理に詳しい担当者です。次の文章を、相談内容が伝わる範囲で匿名化してください。
・伏せたい情報:会社名、取引先名、氏名、金額、日付、社内独自の呼称
・出力:匿名化後の文章と、置き換えた箇所の対応表
・条件:相談の判断に必要な条件は残してください。金額は桁数を保った概数に、日付は幅のある表現に置き換えてください。【以下、匿名化したい文章を記載してください】
※【 】の行は削除し、自分の情報に置き換えてから送信してください。
このプロンプトで最も注意が要るのは、返ってくる対応表の扱いです。対応表には「A社=実際の社名」という組み合わせが並びます。これを次の相談に貼り付けてしまうと、伏せた意味がなくなります。対応表は自分の手元にだけ置き、AIへは戻しません。匿名化の作業そのものが一番危ないのは、ここです。
事業計画や未公表情報を一般化する
事業計画や未公表の情報を、具体性を保ったまま一般的な表現へ置き換えます。詳細を全部削ると、有効な回答は得られません。
「来期に3拠点を統合して2拠点にする」であれば、「複数拠点を統合して数を減らす」まで一般化できます。統合するという事実と、数が減るという方向は残します。ここを削ると相談が成立しません。
契約条件や取引金額を伏せる
契約の条件や取引金額など、外部に知られたくない数値を伏せます。実際の金額でなくても、仮の数値で検討できる場合があります。
判断に効くのは金額そのものではなく、他の数値との関係です。「1,240万円」を「1,000万円台」に置き換えても、予算枠が1,500万円なら収まるかどうかは検討できます。
社内独自の呼称を一般名称に置き換える
社内でのみ通用する呼称やプロジェクト名を、一般的な名称に置き換えます。そのまま使うと、それだけで所属先が推測されます。
個人情報を匿名化する方法
機密情報の匿名化ができたら、個人情報を匿名化します。
氏名を役割や仮名に置き換える
登場する人物の氏名を、役割を表す表現や仮の名前に置き換えます。実名のままでは、本人を特定できる情報になります。
役割に置き換えると、相談の内容はむしろ伝わりやすくなります。「田中さんが反対している」よりも「決裁者が反対している」のほうが、立場の情報が入るためです。
連絡先や所属先の記載を避ける
メールアドレスや電話番号、所属先といった連絡先は入力しません。氏名以上に個人を特定しやすい情報です。
メールの本文をそのまま貼るときに残りやすいのが署名です。本文だけを見て確認したつもりでも、末尾に連絡先が付いています。
個人が特定できる組み合わせを避ける
年齢や部署、勤務地など、単体では問題なくても組み合わさると個人を特定できる情報がないかを確認します。
5名の部署で「勤務地」と「入社年」を書けば、社内では1人に絞れます。単体では伏せる必要がないと見える情報も、数が小さい集団では組み合わせで効いてきます。伏せるかどうかは、情報の種類ではなく母数で決めます。
固有名詞や識別子を置き換える方法
個人情報の匿名化ができたら、固有名詞や識別子を置き換えます。
置き換えのルールを先に決めさせると、複数回のやり取りでも表記が揺れません。以下はAIに送るプロンプトです。コピペして使ってください。
あなたは情報管理に詳しい担当者です。次の文章に含まれる固有名詞と識別子の置き換えルールを作ってください。
・複数回にわたって相談する予定か:予定あり
・出力:「元の表記/置き換え後の表記/種別」の対応表
・条件:同じ種別のものは連番で区別できる形にしてください。置き換え後の表記に、元の表記を思わせる語を使わないでください。【以下、置き換えルールを作りたい文章を記載してください】
※【 】の行は削除し、自分の情報に置き換えてから送信してください。
会社名やサービス名を一般的な表現にする
会社名やサービス名を、業種や役割を示す一般的な表現に置き換えます。そのまま残すと、それだけで対象が推測されます。
連番にするときは、実名の頭文字を使わないようにします。「東西商事」を「T社」と置くと、伏せたことになりません。
社員番号や管理番号を仮の番号にする
社員番号や管理番号などの識別子を、仮の番号に置き換えます。実際の番号のままでは、照合されたときに個人や案件が特定されます。
置き換えても、件数と同一案件かどうかの区別は残します。「案件1と案件3が同じ取引先」という情報は、相談の判断に必要です。
地名や施設名を抽象化する
具体的な地名や施設名を、地域や施設の種類を示す表現に置き換えます。詳細な地名は、他の情報と組み合わさると特定につながります。
数値や業務条件を必要最小限に加工する方法
固有名詞の置き換えができたら、数値や業務条件を加工します。
実数値を桁数を保った概数にする
実際の数値を、桁数や規模感を保ったまま概数に置き換えます。検討に十分な情報を保ちながら特定を避けられます。
桁を変えてしまうと相談が成立しません。「1,240万円」を「数百万円」と書くと、予算の判断も分割の可否も変わります。置き換えるのは下の桁だけです。
期間や日付をずらして記載する
具体的な期間や日付を、実際の時期が特定できない範囲でずらして書きます。正確な日付がなくても、多くの相談は検討できます。
残すのは期限までの残り日数です。「10月14日」を「10月中旬」にしても、そこまで3週間あるという情報があれば検討できます。
特殊な業務条件は一般的な条件に寄せる
その組織特有の業務条件を、一般的な条件に近い形へ寄せて書きます。特殊な条件は、それだけで組織を絞り込ませます。
匿名化しても入力を避けるべき情報を判断する
数値の加工ができたら、匿名化しても入力を避けるべき情報がないかを判断します。加工しても入力すべきでない情報の判断基準は、入力してはいけない情報で確認できます。
復元可能な情報が含まれていないか確認する
匿名化した後でも、他の情報と照合すれば元に戻せる内容が含まれていないかを確認します。復元可能なら匿名化の意味がありません。
復元につながりやすいのは、公表されている情報との組み合わせです。業種と拠点数と統合の時期が揃うと、公開されている企業情報から絞り込めます。
法令や契約で提供が禁止された情報を除外する
法令や契約で外部提供が禁止されている情報は、匿名化にかかわらず入力自体を避けます。匿名化で対応できる範囲かを先に見極めます。
判断に迷う情報は入力しない
匿名化してよいか判断に迷う情報は、入力しないという選択をします。迷った状態で入力すると、後から取り返しがつきません。どこまでを入力禁止とするかを会社として決める手順は、会社で生成AIの社内ルールを作る方法で解説しています。
匿名化した情報で生成AIへ相談する手順
避けるべき情報が判断できたら、匿名化した情報で実際に相談します。
匿名化後の文章を渡すときは、伏せた前提も併せて伝えます。以下はAIに送るプロンプトです。コピペして使ってください。
次の内容について相談させてください。固有名詞と数値は伏せています。
・伏せている情報の種類:会社名は連番、氏名は役割、金額は概数、日付は幅のある表現
・条件:伏せた情報が回答に必要な場合は、それが分かる形で指摘してください。推測で補って回答しないでください。【以下、状況・困っていること・判断したいことを記載してください】
※【 】の行は削除し、自分の情報に置き換えてから送信してください。
匿名化した内容で意味が通じるか確認する
匿名化した文章を読み返し、相談したい内容の意味がきちんと通じるかを確認します。伏せることを優先しすぎると、生成AIが状況を正しく理解できなくなってしまいます。
確認の方法は単純です。匿名化後の文章だけを読んで、判断したいことが自分で分かるかを見ます。分からなければ、削りすぎています。
相談の目的を明確に伝える
匿名化した情報とあわせて、何のために相談しているのかを明確に伝えます。目的が伝われば、伏せた情報からでも的確な回答が得られます。
回答を自社の状況へ戻して確認する
得た回答を、匿名化前の自社の状況に当てはめて確認します。一般化された回答をそのまま使わず、実情に合うかを見ます。
戻すときに効くのが、手元に置いた対応表です。「A社」への回答が実際にどの取引先の話なのかを、自分で突き合わせます。
生成AIへの入力前に匿名化を確認する方法
相談手順が確認できたら、最後に入力前の匿名化を確認します。
入力文に実名や実数値が残っていないか見直す
入力しようとしている文章に、実名や実数値が残っていないかを見直します。一度匿名化しても、修正の過程で元の情報が紛れ込みます。
見直しは検索で行います。伏せたはずの社名と、金額の桁を、送信前に文章内で検索します。目で読み返すより確実です。
第三者が読んでも特定できないか確認する
事情を知らない第三者が読んだときに、誰や何のことか特定できてしまわないかを確認します。自分の感覚ではなく客観的に見直します。
入力後も履歴に残ることを踏まえて確認する
入力した内容が履歴に残る可能性を踏まえて最終確認を行います。一度送った情報は、取り消せない前提で扱います。
まとめ
生成AIへ入力する情報を匿名化する際は、守るべき情報を特定したうえで、機密情報と個人情報をそれぞれ匿名化することが大切です。固有名詞や数値、業務条件を加工し、入力を避けるべき情報を見極めたうえで、意味が伝わる形で相談し、入力前に最終確認することで、漏えいリスクを下げた入力文に仕上げられます。
とくに気をつけたいのは2点です。ひとつは、AIに作らせた対応表をAIへ戻さないこと。「A社=実際の社名」の組み合わせを貼れば、伏せた作業が無駄になります。もうひとつは、伏せるかどうかを情報の種類ではなく母数で決めること。勤務地と入社年は単体では無害でも、5名の部署なら1人に絞れます。
まずは社内規定で扱いが決まっている情報がないかを確認するところから始めてみてください。生成AIを仕事へ取り入れる全体の流れは、生成AIを仕事で使う方法で解説しています。