担当者しか分からない業務が属人化してしまい、いざマニュアルを作ろうとしても、何をどこまで書けばよいのか分からず後回しになっていることはないでしょうか。この記事では、ChatGPTを使ってマニュアル・手順書を作る方法を解説します。作る前に業務を整理する方法から、工程ごとの分解、条件と注意事項の整理、初稿の作成手順、初心者にも伝わる表現への調整、例外処理の追加、そして完成したマニュアルを実務で検証する方法まで、順を追って紹介します。
マニュアルは、実際にその業務を初めて行う人が迷わず実行できることが目的です。ChatGPTを使って効率的に作成しながらも、この目的を忘れずに整えていきましょう。
手順が抽象的にならないよう、この記事では一つのマニュアルを最後まで作ります。題材は「経費精算の申請チェック業務を、来月異動する担当者から引き継ぐためのマニュアルを作る」です。月120件の申請をチェックしていて、担当は1人、引き継ぎまで3週間、という想定で読み進めてください。
ChatGPTでマニュアルを作る前に業務を整理する方法
マニュアル作成を依頼する前に、対象業務の情報を整理しておく必要があります。
マニュアルの利用者と目的を決める
まず、そのマニュアルを誰が使い、何のために使うのかを決めます。新任者向けの引継ぎ資料なのか、既存担当者向けの参照資料なのかによって、説明の詳しさや前提とする知識のレベルが変わります。
利用者は経費精算システムを使ったことがない後任者です。ここで説明の粒度が決まります。「申請一覧を開く」では足りず、「どのメニューから開くか」まで書くという判断です。既存担当者向けなら冗長になります。
作業の開始条件と完了条件を明確にする
対象業務が、どのような状態から始まり、どのような状態になれば完了とみなすのかを明確にします。開始と完了の範囲があいまいなままだと、マニュアルに含めるべき内容の境界が定まりにくくなります。
開始は「申請者が提出し、一覧に並んだ状態」、完了は「承認または差し戻しを終えた状態」です。ここを決めると、差し戻した後の押し問答は範囲外だと切り分けられます。範囲を広げると3週間では終わりません。
現行手順を実際の順番で書き出す
現在実際に行っている手順を、実際の順番のまま書き出します。この段階では整理を意識せず、普段の作業をそのまま言語化することを優先し、後の工程で工程ごとに分解していきます。
覚えておきたいのは、現担当者が書き出す手順には、本人が無意識にやっていることが入らない点です。申請者の部署と経費科目の組み合わせを見て違和感に気づく、といった確認は出てきません。本人には手順ではなく反射だからです。この抜けは検証工程で見つかるので、今は気にせず書き出します。
業務手順を工程ごとに分解する方法
書き出した手順を、マニュアルとして使いやすい単位に分解します。
担当者の交代を前提に業務内容をまとめる場合は、ChatGPTで業務引き継ぎを効率化する方法|担当業務・期限・注意点を整理もあわせて確認してください。
一つの工程に一つの操作を割り当てる
一つの工程の中に複数の操作が混ざっている場合は、一つの工程には一つの操作だけを割り当てるよう分解します。操作が混在していると、読み手がどこまでが一つの作業単位なのかを把握しにくくなります。
題材の「申請内容を確認する」は工程になりません。分けると、金額と領収書の一致、日付が申請期間内か、経費科目が合っているか、の3つです。1工程に1操作まで割ると、途中で中断しても再開できます。
分解そのものも任せられます。以下はAIに送るプロンプトです。コピペして使ってください。
次の作業手順を、1工程に1操作まで分解してください。
・条件1:1つの工程に複数の操作が混ざっている場合は分けてください
・条件2:各工程に、使うシステムまたは参照する資料を1つ書いてください
・条件3:状況によって判断が要る工程には「判断あり」と印を付けてください
・条件4:私が書いていない工程を足さないでください
【以下、追加したい内容を記載してください】
※【 】の行は削除し、自分の情報に置き換えてから送信してください。
担当者や使用ツールを明記する
各工程について、担当する役割や、使用するツール・システムを明記します。担当者やツールの情報があることで、実際にその業務を引き継ぐ人が、必要な準備を把握しやすくなります。
分解結果です。
| 工程 | 使うもの | 判断の有無 |
|---|---|---|
| 申請一覧を開く | 経費精算システム | なし |
| 金額と領収書の一致を見る | 申請画面の添付ファイル | なし |
| 日付が申請期間内かを見る | 申請画面 | なし |
| 経費科目が合っているかを見る | 社内の経費規定 | あり |
| 承認または差し戻しを処理する | 経費精算システム | なし |
判断が必要な工程を分ける
単純な作業として進める工程と、状況に応じた判断が必要な工程を分けます。判断が必要な工程を明確にしておくことで、後述する条件や注意事項の整理につなげやすくなります。
「判断あり」が付いたのは5工程のうち1つだけです。ここが属人化の正体です。残り4工程は誰がやっても同じ結果になるので、引き継ぎでは問題になりません。3週間はこの1工程に使います。
手順ごとの条件と注意事項を整理する方法
工程が分解できたら、それぞれの工程に付随する条件や注意点を整理します。
実行条件と禁止事項を整理する
各工程を実行するための条件と、行ってはいけない禁止事項を整理します。条件と禁止事項が明確であることで、マニュアルを読む人が自己判断で誤った対応を取ってしまうリスクを減らせます。
禁止事項は2つです。自分の申請を自分で承認しない。金額を修正して承認しない(誤りは差し戻す)。禁止事項は、代わりに何をするかをセットで書きます。書かないと、差し戻すべき場面で修正して通してしまいます。
ミスが起きやすい箇所を明示する
実際の業務の中で、これまでミスが起きやすかった箇所を明示します。経験のある担当者が知っている「つまずきやすいポイント」を明文化しておくことで、新任者が同じミスを繰り返すことを防げます。
挙がったのは、年度をまたぐ日付、税率の違う領収書、二重申請の3つです。書き出すのは過去に実際に起きたものだけです。「起こりそうなこと」を入れると、注意すべき箇所が埋もれます。
確認ポイントと完了基準を入れる
各工程の途中や完了時に確認すべきポイント、そしてその工程が完了したと判断できる基準を入れます。確認ポイントがあることで、作業者が自分の進捗を正しく把握できるようになります。
完了基準は「一覧に未処理が残っていないこと」です。「確認が終わったら」ではなく、画面を見れば判定できる状態で書きます。
ChatGPTでマニュアルの初稿を作る手順
整理した情報をもとに、実際にChatGPTでマニュアルの初稿を作成します。
利用者・目的・手順をまとめて伝える
整理した利用者情報、目的、工程ごとの手順をまとめてChatGPTに伝えます。情報がまとまっていることで、ChatGPTが一貫した構成のマニュアルを作成しやすくなります。
次の形で渡します。以下はAIに送るプロンプトです。コピペして使ってください。
業務マニュアルの初稿を作ってください。
・利用者:経費精算システムを使ったことがない後任者
・目的:月120件の申請チェックを、1人で最後まで処理できるようにする
・開始:申請者が提出し、一覧に並んだ状態
・完了:承認または差し戻しの処理を終えた状態
・工程:(分解した5工程をそのまま貼る)
・禁止事項:自分の申請を自分で承認しない/金額を修正して承認しない
・条件:ここに書いた情報だけを使い、記載のない手順や条件は追加しないでください。情報が足りない箇所は「要確認」と書いて残してください。
見出しと番号付き手順で出力させる
マニュアルの構成を、見出しと番号付きの手順という形式で出力するよう指示します。番号が振られていることで、作業者が現在どの工程を行っているかを見失いにくくなります。
番号は工程の単位で振ります。題材なら1から5です。枝番(1-1、1-2)を使い始めたら、分解が足りていない合図です。
元情報にない内容を補わないよう指定する
「伝えた情報のみを使い、記載のない手順や条件は追加しないでください」のように指定します。この指定をしておくことで、ChatGPTが文脈を補おうとして、実際には存在しない手順を追加してしまうリスクを抑えられます。 手順書づくりで使う指示を毎回作り直さずに済ませたい場合は、ChatGPTで業務用プロンプトを作る方法でテンプレート化の手順を解説しています。
この指定がいちばん必要になるのは、判断が要る工程です。「経費科目が合っているかを見る」を条件なしで書かせると、こういう一文が入ります。
領収書の宛名が個人名になっている場合は差し戻してください。
もっともらしい基準ですが、社内規定にこの記載はありません。実際の規定が「宛名は問わない。ただし5,000円以上は但し書きが必要」であれば、内容が食い違います。一般的な経理の慣行が入り込んでいます。
判断の工程を書かせるときは、規定の該当箇所を貼ったうえでこう添えます。以下はAIに送るプロンプトです。コピペして使ってください。
判断の基準は、上に貼った規定の文言だけを使ってください。規定に書かれていない判断が必要な場面は、あなたの一般的な知識で補わず、「規定に記載なし・要確認」と書いてください。
「要確認」の箇所が、現担当者に聞くべきことのリストです。題材では3か所ほど付き、うち2か所は現担当者も明文化された根拠を持っていない、という形になります。引き継ぎで一番危ない場所です。
初心者でも実行できる表現へ整える方法
初稿ができたら、実際にその業務を知らない人でも実行できる表現に整えます。
手順書で繰り返し発生する疑問をまとめる場合は、ChatGPTでFAQを作る方法|問い合わせ内容から質問と回答を整理も役立ちます。
専門用語を必要な範囲で言い換える
専門用語や社内独自の呼び方について、必要な範囲で分かりやすい言葉に言い換えるようChatGPTに依頼します。すべてを言い換える必要はなく、初めてその業務に触れる人が迷わない範囲で調整することを意識します。
社内でしか通じない言葉だけを言い換えます。「仮払」は会計用語なので残し、「あの一覧」「例の画面」といった社内の呼び方を実際のメニュー名に直します。会計用語までかみ砕くと、規定と突き合わせられなくなります。
一文を短くして操作内容を明確にする
一つの文の中に複数の操作が含まれている場合は、文を短く分けて、一つの文で一つの操作が分かるように整えます。長い文は読み飛ばされやすく、操作の抜け漏れにつながるため、簡潔な表現を心がけます。
一文に「、」が3つ以上入ったら分割を検討します。題材の「申請一覧を開いて、未処理で絞り込んで、日付順に並べ替えてから、上から順に確認します」は4操作なので4行に割ります。
表現の調整も条件を付ければ任せられます。以下はAIに送るプロンプトです。コピペして使ってください。
次のマニュアルの文を、この業務を知らない人でも実行できる表現に直してください。
・条件1:一文に1操作。「、」が3つ以上入る文は分けてください
・条件2:社内でしか通じない呼び方だけを言い換え、会計用語はそのまま残してください
・条件3:画面名とボタン名は変更しないでください(実際の表記を入れてあります)
・条件4:手順の内容そのものは変えないでください
【以下、追加したい内容を記載してください】
※【 】の行は削除し、自分の情報に置き換えてから送信してください。
画面名やボタン名を実際の表記に合わせる
システムやツールの操作を説明する際は、画面名やボタン名を実際の表記に正確に合わせます。表記が実際の画面と異なっていると、作業者が操作対象を見つけられず、混乱の原因になります。
ここはChatGPTに任せられません。画面を見ながら自分で書き写します。「承認」なのか「承認する」なのか、表記のゆれも写します。ボタン名を要約すると、後任者が画面上で見つけられません。
例外処理・トラブル対応を追加する方法
通常の手順に加えて、例外的な状況への対応もマニュアルに含めます。
通常と異なるケースを洗い出す
通常の手順どおりに進まない、例外的なケースを洗い出します。普段業務を行っている担当者の経験をもとに、どのような場面で通常と異なる対応が必要になるかを整理します。
洗い出し方は、直近3か月で通常どおりに処理できなかった申請を数えることです。記憶より履歴から拾うほうが確実です。題材では、月120件を3か月分さかのぼって11件ほどになります。
エラー時の対応先や判断基準を示す
エラーやトラブルが発生した際に、誰に連絡すればよいか、どのような基準で対応を判断すればよいかを示します。対応先が明確であることで、作業者が一人で判断に迷い続ける事態を避けられます。
11件の整理も任せられます。以下はAIに送るプロンプトです。コピペして使ってください。
次は、通常どおりに処理できなかった申請の記録です。表に整理してください。
・列:起きたこと/対応/連絡先
・条件1:同じ原因のものはまとめてください
・条件2:連絡先が不要なものは「対応不要」と書き、空欄にしないでください
・条件3:記録に書かれていない対応方法を補わないでください
【以下、追加したい内容を記載してください】
※【 】の行は削除し、自分の情報に置き換えてから送信してください。
題材では次の形です。
| 起きたこと | 対応 | 連絡先 |
|---|---|---|
| 領収書の添付がない | 差し戻す | 対応不要 |
| 規定の上限を超えている | 差し戻す | 対応不要 |
| 領収書が汚損して読めない | 判断が要る | 経理課 |
| 退職者名義の申請が残っている | 処理を止める | 人事課 |
「対応不要」の行を書いておきます。連絡先が空いていると、後任者は聞くべきか迷います。
作業を中止すべき条件を明確にする
作業を進めることが適切でない状況、つまり作業を中止すべき条件を明確にします。無理に作業を進めてしまうことでかえって問題が大きくなるケースもあるため、中止の判断基準をあらかじめ示しておくことが重要です。
中止条件は1つです。同じ領収書が別の申請にも添付されている疑いがあるとき。差し戻さず、処理を止めて上長へ報告します。差し戻すと申請者が取り下げて記録が残らないためです。中止条件には理由を添えます。ないと、後任者は「急ぎだから」と自分で処理します。
完成したマニュアルを実務で検証する方法
マニュアルが完成しても、実際に使えるかどうかは検証してみないと分かりません。
実際の担当者に手順どおり実行してもらう
マニュアルを作成した本人ではなく、その業務に詳しくない担当者に、マニュアルの手順どおりに実際の作業を行ってもらいます。作成者自身の感覚では気づけない分かりにくさが、第三者による実行を通じて見つかることがあります。
ここで、最初の章で触れた無意識の確認が見つかります。後任者が手順どおり進めると、営業部の申請に技術部の経費科目が付いた1件をそのまま承認してしまいます。現担当者なら違和感で止まる組み合わせですが、手順書のどこにも書かれていなかったためです。
立ち会うときは手を出さずに見ます。後任者が迷って手を止めた箇所が、書き足すべき箇所です。先に教えると、その情報は口頭で伝わったままマニュアルに残りません。
不明点や抜けた工程を修正する
実際に試してもらった際に出てきた不明点や、抜けていた工程を洗い出し、マニュアルへ反映します。一度で完璧なマニュアルを作ろうとせず、実際の運用を通じて改善していく姿勢が重要です。
検証では6か所ほどの追記が出ます。無意識の確認が2か所、画面表記の相違が3か所、例外の抜けが1か所です。初稿で完璧を目指さず、検証で出る前提で進めます。書く時間より試す時間を取るほうが早く終わります。
業務変更時の更新担当を決める
業務の内容が変わった際に、誰がマニュアルを更新する責任を持つのかを決めておきます。更新担当が決まっていないと、業務が変わってもマニュアルが古いまま放置され、実態と合わなくなってしまいます。
題材では、引き継いだ後任者自身を更新担当にします。使う人と直す人が同じなら、ずれに気づいた時点で直せます。あわせて規定が改定されたら経理課から連絡が来る経路も決めます。判断の工程は規定に紐づくためです。
まとめ
ChatGPTでマニュアル・手順書を作るには、利用者と目的、開始・完了条件を決め、現行手順を実際の順番で書き出すことが出発点になります。工程を一つの操作単位に分解し、実行条件・禁止事項・ミスが起きやすい箇所を整理したうえで、見出しと番号付き手順の形式で初稿を作成します。専門用語の言い換えや一文の簡潔化で初心者にも分かりやすい表現に整え、例外処理とトラブル対応を加えたら、実際の担当者に試してもらい、不明点を修正したうえで、業務変更時の更新担当も決めて運用を始めてください。業務文書づくり全体の流れは、AIで業務文書・社内資料を作る方法で解説しています。
冒頭の題材は、5工程に分解し、例外4パターンと中止条件1つを加えた形にまとまります。3週間の前半で書き、後半は後任者に実際に処理してもらう時間に充てます。この時間を取らずに渡すと、6か所が抜けたまま引き継ぐことになります。
この題材から持ち帰れることは2つです。ひとつは、判断が必要な工程だけに時間を使うこと。5工程のうち判断が要るのは1つで、そこが属人化の正体です。
もうひとつは、指示文に「規定に書かれていない判断は『規定に記載なし・要確認』と書く」を入れることです。要確認が付いた箇所は、現担当者も明文化された根拠を持っていないことが多く、引き継ぎで一番危ない場所です。
よくある質問
Q. 業務が複雑すぎて、手順に分解しきれません。
無理に一度ですべてを分解しようとせず、まず大きな流れを書き出し、その後に細かい工程へ段階的に分ける進め方をおすすめします。判断が必要な工程から先に分解すると、限られた時間でも効果の大きい部分から仕上げられます。
Q. マニュアルを作ったあと、更新を忘れてしまいそうです。
業務変更が発生した際にマニュアルを見直すタイミングを、あらかじめ業務フローの一部として組み込んでおくと、更新漏れを防ぎやすくなります。
Q. 現担当者が「見れば分かる」と言って手順を言語化してくれません。
反射になっている確認は、本人には言葉にしにくいものです。聞き出すのではなく、第三者にマニュアルどおり実行してもらい、現担当者に見ていてもらいます。違和感で止まった箇所が、言語化されていなかった確認です。