Excelを使った業務は幅広く、関数の作成、データの分析、グラフの作成、VBAによる自動化など、それぞれに一定のスキルが求められます。この記事では、AIを使ってExcel業務を効率化する方法を、関数作成・データ分析・グラフ作成・VBA作成という代表的な場面ごとに解説します。あわせて、AIに任せる範囲と、データ管理の注意点、AIが作った内容を使う前に確認すべきポイントも紹介します。
Excel業務は数値や数式を扱うため、AIの出力をそのまま使うのではなく、確認を前提に活用する姿勢が特に重要になります。
説明を具体的にするため、この記事では「毎月末、3つの支店から届くExcelを1つにまとめて部門別の売上レポートを作る」という1件の作業を最後まで追いかけます。今は1回あたり4時間かかっており、その内訳は転記と整形に90分、集計用の数式づくりに40分、前月比で目立つ数字を探すのに50分、グラフ4枚に30分、体裁の調整と最終確認に30分です。どの工程をAIに回すかを、この240分の内訳をもとに決めていきます。
AIで効率化できるExcel業務の範囲
まず、Excel業務の中で、どのような作業がAIによる効率化に向いているのかを整理します。どのツールで進めるか迷う場合は、Excel向けAIツールの選び方もあわせて確認してください。
4時間の内訳を工程ごとに見ると、任せ方は工程によって変わります。
| 工程 | 今かかっている時間 | 任せ方 |
|---|---|---|
| 3支店のExcelを転記・整形 | 90分 | VBAで自動化する |
| 部門別集計の数式づくり | 40分 | 数式の候補を作らせる |
| 前月比で目立つ数字を探す | 50分 | 集計軸と観点を提案させる |
| グラフ4枚の作成 | 30分 | 種類と見せ方だけ相談する |
| 体裁の調整と最終確認 | 30分 | 人が行う |
最も時間を使っている転記が、最も自動化しやすい工程です。逆に、時間は短いのに人が抱えるべき工程もあります。着手の順番は、かかっている時間と、間違えたときの影響の大きさで決めます。
場面ごとの分担は次のとおりです。
| 場面 | AIに任せる部分 | 人が必ず確認する点 |
|---|---|---|
| 関数・数式 | 条件から数式の候補を作る | 参照範囲と$の付け方、境界値の動き |
| 集計・分析 | 集計軸と分析観点の提案 | 元データとの数値の一致 |
| グラフ | 種類の選定と見せ方の助言 | 参照範囲、縦軸の最小値 |
| VBA・マクロ | コードのたたき台の作成 | バックアップを取った上での動作確認 |
関数や数式の作成・修正
やりたい処理を言葉で説明するだけで、AIに関数や数式の候補を作らせることができます。関数の書き方を覚えていなくても、実現したいことを伝えれば候補を出してもらえる点は、Excel業務の効率化に直結します。
集計や分析観点の整理
手元のデータからどのような集計や分析ができるか、観点を整理する作業もAIに任せやすい領域です。データを眺めるだけでは気づきにくい切り口を提案してもらえることもあります。
グラフ選択と可視化の検討
集計した結果をどのような形のグラフで見せるとよいか、可視化の方法を検討する際にもAIを活用できます。データの性質に応じたグラフの種類を相談しながら決められます。
VBAによる定型処理の自動化
毎回同じ手順で行っている定型処理を自動化するVBAコードの作成も、AIに任せやすい業務です。プログラミングの知識が少なくても、やりたい処理を伝えることでコードのたたき台を得られます。
AIでExcel関数作成を効率化する方法
40分かけている数式づくりから見ていきます。具体的な指示の出し方はChatGPTでExcel関数を作る方法で詳しく解説しています。
やりたい処理を日本語で説明する
実現したい処理を、関数の名称を意識せず、日本語でそのままAIに説明します。「A列の値が条件を満たす場合にB列の値を合計したい」のように、目的を具体的に伝えることで、適した関数の候補を提案してもらいやすくなります。
以下はAIに送るプロンプトです。コピペして使ってください。
Excelの数式を作ってください。
・使用環境:Microsoft 365版のExcel(Windows)
・データ:1行目が見出し、A列が部署、B列が金額、データはA2からB300
・数式を入れるセル:E2
・やりたいこと:A列が「営業部」の行のB列だけを合計する
・例外の扱い:B列が空欄の行は無視する
・条件:数式だけを1行で返し、使った関数の役割を1文ずつ補足してください。
作成された数式の意味を確認する
AIが作成した数式は、そのままセルに入力する前に、その数式が何を意味しているのかを確認します。数式の各部分がどのような条件や計算を表しているのかを説明してもらうことで、意図した処理になっているかを判断しやすくなります。
たとえば =SUMIF($A$2:$A$300,"営業部",$B$2:$B$300) なら、1つ目が判定する範囲、2つ目が条件、3つ目が合計する範囲です。判定範囲と合計範囲の行数が揃っていないと、意図しない行まで集計されます。売上レポートでは3支店を1つにまとめた後の行数が月によって変わるため、300行で固定した式のままだと、行が増えた月に一部の行が集計から漏れます。
エラー内容を伝えて式を修正する
数式を入力した際にエラーが出た場合は、エラーの内容をそのままAIに伝えて修正を依頼します。エラーメッセージを伝えることで、原因を特定しやすくなり、修正までの時間を短縮できます。
伝えるのは、入力した数式・エラー表示(#N/A、#VALUE!など)・期待する結果の3点です。「エラーを隠すのではなく、原因を特定したうえで修正してください」と添えると、IFERRORで包んだだけの回答を避けられます。
AIでExcelデータ分析を効率化する方法
次は、前月比で目立つ数字を探すのに使っている50分です。集計から考察までの手順はChatGPTでExcelデータ分析をする方法で詳しく解説しています。
データ項目と分析目的を整理する
保有しているデータの項目と、分析を通じて何を明らかにしたいのかという目的を、AIに伝えて整理します。目的があいまいなまま分析を進めると、集計結果をどう解釈すればよいか分からなくなるため、この整理を先に行います。
渡すのは実際の値ではなく列の見出しだけで足ります。「A列:受注日、B列:商品カテゴリ、C列:金額、D列:担当者」という構成と、明らかにしたいこと(例:カテゴリ別の受注単価の差)を伝えます。
必要な集計方法と分析観点を決める
分析目的が明確になったら、どのような集計方法や観点で分析を進めるべきかをAIに相談します。単純な合計や平均だけでなく、比較や傾向を捉えるための切り口を提案してもらうことで、分析の幅を広げられます。
以下はAIに送るプロンプトです。コピペして使ってください。
次の列構成のデータで確認できる集計軸を5つ挙げ、それぞれ何が分かるかを1行で書いてください。実際の値は渡していないので、数値の推測はしないでください。
【以下、列の見出しを記載してください】
※【 】の行は削除し、自分の情報に置き換えてから送信してください。
出てきた軸から目的に合う2つか3つを選ぶ形にすると、思いつく切り口に偏らずに済みます。売上レポートなら、毎月見ている「部門別の前月比」に加えて、「支店×部門の組み合わせで前月比が逆方向に動いた箇所」という軸が出てきます。これまで目視で探していた50分の作業が、この軸で絞ると先に候補が出ます。
結果から確認すべき傾向を整理する
集計結果が出たら、その結果からどのような傾向が読み取れるかをAIに整理させます。数値の羅列だけでは気づきにくい傾向も、整理された形で示されることで把握しやすくなります。
以下はAIに送るプロンプトです。コピペして使ってください。
次の集計結果から読み取れることを整理してください。データから読み取れることと、データだけでは判断できないことを分けて書き、原因の推測は書かないでください。
【以下、追加したい内容を記載してください】
※【 】の行は削除し、自分の情報に置き換えてから送信してください。
区別を求めないと、推測が事実のように並びます。
AIでExcelグラフ作成を効率化する方法
グラフ4枚に使っている30分も短縮できます。データに合うグラフの選び方はChatGPTでExcelグラフを作る方法で詳しく解説しています。
比較・推移・構成比からグラフを選ぶ
データの性質が、項目同士の比較なのか、時系列の推移なのか、全体に対する構成比なのかによって、適したグラフの種類は異なります。データの性質を伝えることで、AIに適したグラフの種類を提案してもらえます。
比較は棒グラフ、推移は折れ線グラフ、構成比は円グラフが基本です。円グラフは項目が5つ程度を超えると読み取りにくいため、上位だけを個別に出して残りを「その他」にまとめます。売上レポートのグラフ4枚は、部門別の比較が棒、月次推移が折れ線、構成比が円、支店別の前月比が横棒という内訳になります。
軸・単位・系列の見せ方を整理する
グラフの種類が決まったら、軸の設定や単位、複数系列の見せ方についても相談します。見やすいグラフに仕上げるための工夫を、AIとのやり取りの中で具体化していけます。
そろえるのは、結論が分かるタイトル、単位を入れた軸ラベル(例:売上(千円))、棒グラフなら0から始まる縦軸の3点です。
設定を言葉で渡せば、点検だけを頼めます。以下はAIに送るプロンプトです。コピペして使ってください。
次のグラフの設定を渡します。数値の違いを誇張している箇所と、単位や凡例が不足している箇所を指摘してください。指摘ごとに直し方を設定名で示し、問題のない項目は挙げないでください。
【以下、追加したい内容を記載してください】
※【 】の行は削除し、自分の情報に置き換えてから送信してください。
AIでVBA・マクロ作成を効率化する方法
最も時間を食っている転記と整形の90分が、ここで扱う領域です。コード生成から修正までの進め方はChatGPTでExcel VBA・マクロを作る方法で詳しく解説しています。
自動化したい作業を手順に分ける
自動化したい作業を、順を追った手順としてAIに伝えます。手順が明確になっていることで、AIがその手順を再現するコードを作成しやすくなります。
手順は、実際に行っている操作をそのまま番号で書き出します。「①フォルダ内のファイルを開く ②Sheet1のA列からD列をコピー ③集計用ブックの最終行の下に貼り付ける ④ファイルを閉じる ⑤次のファイルで繰り返す」という粒度まで分ければ、使えるコードになります。売上レポートの転記はこの5手順がそのまま当てはまり、3支店分を順に処理する形になります。
VBAコードのたたき台を作る
整理した手順をもとに、AIにVBAコードのたたき台を作らせます。一から書き方を調べるよりも、たたき台をもとに調整する方が、作業を進めやすくなります。以下はAIに送るプロンプトです。コピペして使ってください。
次の手順を実行するExcelのマクロを作ってください。Microsoft 365版のExcel(Windows)で使います。コードを提示したうえで、貼り付けや書き換えを行う前に対象の件数だけを表示して確認できる形も一緒に示してください。
【以下、追加したい内容を記載してください】
※【 】の行は削除し、自分の情報に置き換えてから送信してください。
貼り付け先は、[開発]タブの[Visual Basic](または[Alt]+[F11])で開く画面です。[開発]タブが見えない場合は、[ファイル]→[オプション]→[リボンのユーザー設定]で表示できます。マクロを含むブックは、拡張子を.xlsmにして保存する必要があります。
エラーを確認しながら小さく修正する
作成したコードを実行してエラーが出た場合は、エラー内容を伝えながら少しずつ修正します。一度にすべてを完成させようとせず、小さな単位で動作を確認しながら進めることで、問題の原因を特定しやすくなります。
伝えるのは、実行したコード・エラーメッセージとエラー番号・黄色く反転した行の3点です。書き換えや削除を含むコードは、先に対象を画面に出すだけの形(MsgBoxで件数を表示するなど)で試してから、実際の処理に差し替えます。
Excel業務でAIを使うときのデータ管理
Excel業務でAIを使う際は、データの取り扱いにも注意が必要です。売上レポートの元データには、支店名・担当者名・取引先名・金額が並んでいます。数式やコードを作る目的なら、この中身を渡す必要はありません。
個人情報や機密データをそのまま入力しない
顧客の個人情報や、社内の機密データが含まれるExcelファイルの内容を、そのままAIへ入力することは避けます。データの一部だけを使う場合でも、機密性の高い情報が含まれていないかを事前に確認します。
数式やコードを作る目的なら、必要なのは列の構成と型だけです。「B列に社名、C列に金額が入っている」という情報があれば数式は作れます。
必要に応じてサンプルデータへ置き換える
数式やコードの作成を依頼する際は、実際のデータではなく、同じ構造を持つサンプルデータに置き換えて伝える方法も有効です。数式やコードの仕組みを確認する目的であれば、サンプルデータでも十分に対応できる場合があります。
置き換えは、構造を保ったまま値だけを差し替えます。社名は「A社」、氏名は「担当者1」、金額は桁数を変えずに架空の数値にします。桁数を変えると、想定と違う数式が返ることがあります。
会社の生成AI利用ルールを確認する
Excel業務でAIを利用する前に、会社で定められた生成AIの利用ルールを確認します。業務データを扱う以上、個人の判断だけで利用を進めるのではなく、社内のルールに沿った形で活用することが重要です。売上レポートの場合、扱うのは支店の売上金額なので、社内では未公表の数字にあたります。列の構成だけを渡す運用にしておけば、この確認でも引っかかりません。
AIが作った数式・分析・コードを確認するポイント
AIが作成した数式、分析結果、VBAコードは、そのまま業務に使う前に、必ず確認する工程を挟みます。
この売上レポートで起こりやすいのが、VBAのたたき台を本番のファイルでそのまま実行してしまうことです。3支店分の元データを貼り付けたシートが上書きされると、マクロの変更は[Ctrl]+[Z]で戻らないため、3支店へ再送を依頼することになります。時間を短縮するために試したことで、その月は逆に時間がかかります。
数式の参照範囲と条件を確認する
作成された数式が、意図した範囲のセルを参照しているか、条件の指定が正しいかを確認します。参照範囲がずれていると、一見正しく動いているように見えても、誤った結果を返してしまうことがあります。
確認は、数式を入れた最初のセルと、最後の行にコピーしたセルの2か所を見ます。固定すべき範囲に$がないと、コピーした分だけ範囲がずれます。
分析結果を元データと照合する
分析結果として示された数値や傾向を、元のデータと照合して確認します。集計方法の解釈に誤りがあると、結論を誤って導いてしまう可能性があるため、この確認は省略しないようにします。
照合は、合計値が元データの総計と一致するかをまず見ます。分類ごとの集計なら、各分類の合計を足した値が総計と合うかを見ると、抜けや二重計上に気づけます。
どこを照合するかの絞り込みも任せられます。以下はAIに送るプロンプトです。コピペして使ってください。
次の集計表について、元データと照合すべき箇所を3つから5つ選んでください。箇所ごとに「何を確かめられるか」を1行で書き、データの中身は渡していないので選び方の基準で答えてください。
【以下、追加したい内容を記載してください】
※【 】の行は削除し、自分の情報に置き換えてから送信してください。
VBAはバックアップしたファイルでテストする
VBAコードを実行する際は、必ず元のファイルのバックアップを取ってからテストします。想定外の動作によってデータが書き換わってしまう可能性があるため、本番のファイルでいきなり実行することは避けます。
マクロによる変更は[Ctrl]+[Z]で元に戻せません。実行前にファイルをコピーしておくことが、唯一の戻し方になります。
まとめ
AIでExcel業務を効率化するには、関数作成、データ分析、グラフ作成、VBA作成のそれぞれで、やりたいことを具体的に言葉で伝えることが基本になります。関数やコードのたたき台をAIに作らせることで作業時間を短縮できますが、個人情報や機密データの取り扱いには注意し、必要に応じてサンプルデータへの置き換えや社内ルールの確認を行います。
この記事で追いかけた売上レポートは、240分の内訳を5工程に割って任せ方を決めると、105分になります。転記と整形の90分がVBAで10分に、数式づくりの40分が15分に、異常値探しの50分が25分に、グラフ4枚の30分が10分になり、体裁の調整と最終確認の30分は、そのまま人が行います。ここまでで90分です。これにAIの出力を照合する15分が加わって、合計105分になります。本番ファイルでVBAを試して元データを上書きする失敗も、コピーしたファイルで試す手順にすれば避けられます。
依頼の型は共通で、使用環境・データの構成・やりたいこと・例外の扱いの4点を渡します。作成された数式・分析結果・コードは、参照範囲の確認、合計値の照合、バックアップを取ったうえでのテストを経てから業務に使用してください。
よくある質問
Q. Excelの知識がなくてもAIを活用できますか。
関数名や書き方を知らなくても、実現したい処理を日本語で伝えることで候補を提案してもらえます。ただし、提案された数式やコードの意味は確認しながら進めることをおすすめします。
Q. 機密データを含むExcelファイルでもAIを使えますか。
機密データが含まれる場合は、そのまま入力せず、同じ構造のサンプルデータに置き換えるか、社内の利用ルールを確認したうえで進めてください。
Q. どこから手を付けるのが効率的ですか。
繰り返している作業のうち、かかっている時間が長い工程から始めるのが確実です。この記事の売上レポートでは、240分のうち90分を占める転記が最大の候補です。ただし書き換えを伴うVBAは失敗の影響も大きいため、まずは関数か集計の相談から試し、慣れてからVBAに進む順序が安全です。